東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1044号 決定
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〔決定理由〕二、……申立人は昭和三六年七月五日…の建物を前所有者から買受け、同日相手方との間で、新たに公正証書による本件借地契約を締結したものであり、右契約には、借地内の建物の増改築には賃貸人の承諾を受けることという特約があるほか、「賃貸人の承諾なくして賃借物の用法又は原状を変じないこと」、「賃借地内に土造、石造、煉瓦造又はこれに類する堅固の建物を建築せぬこと」、「賃借地内の土砂を他へ搬出しないこと」という特約がある。
また、本件土地は、ほぼ正方形をなし、南側8.3米は幅員3.5米の私道に面し、西側九米は幅員4.5米の公道に面し、北側8.1米は第三者所有地に接し、東側九米は相手方が第三者に賃貸している土地に接している。そして、東側隣地とは等高であり、南側私道ともほぼ等高であるが、西側の公道は南に向つて登り坂になつているので、本件土地は、南西の角で0.6米、北西の角で1.52米公道より高くなり、この部分には、大谷石の石垣が積まれており、また本件土地は北側隣地に比し、一段と高く、崖をなしており、その境界線にそつて本件土地の側に高さ2.1米の大谷石の石垣が積まれ、その石垣は同様の状態で前記の東側隣地の部分にも積まれて、東方に延びている。
ところで、申立にかかる本件増改築のうち、地上の木造二階建居宅床面積一階54.296平方米(15.21坪)二階45.328平方米(13.71坪)の部分は、勿論、前記の増改築を制限する特約には反するが、建築関係法規にも適合し、近隣に対しても格別の影響を与えるとも認められず、本件土地の通常の利用上は相当であるといわなければならない。
しかし、本件増改築のうち地下の鉄筋コンクリート造一階車庫床面積24.02平方米(7.57坪)の部分は、本件土地の北西角から公道に沿つて間口約五米、奥行約7.8米、深さ約1.5米にわたつて、前記北側の石垣の部分も含めて、削り取つて、その土砂を搬出し、堅固な構造を有する建物として築造されるものであつて、これは増改築を制限する特約に反するだけでなく、前記の借地の原状変更の禁止の特約に反することになることは明らかであり、また一応、前記の堅固建物の建築禁止の特約、借地内の土砂の搬出禁止の特約に反することにもなる。
もとより、借地法第八条ノ二第二項は、借地上建物の増改築は、借地人が自己所有の建物に変更を加えるものであるから、それが借地の通常の使用収益の方法(用法)の範囲であるかぎり、本来自由に許されるべきであることを前提とし、借地上の建物の増改築を制限する旨の借地条件が存在する場合でも、その増改築がその土地の通常の利用方法として相当なものであれば、借地の合理的利用を図る趣旨から、借地契約の当事者双方の利害を調整してこれを許可しようというのである。そして、右のような土地の通常の利用上相当な増改築も、単に、建物の変更だけでなく、その建物の基礎工事等のために借地の一部を掘さくし、又は土盛りをするなどして、最少限度必要な範囲で借地の原状の一部を変更することも附随的に許されるものといわなければならないし、それを明らかにするために同条第三項による附随の処分として、それが触れる借地条件を変更することも許されるといえよう。
ところが、本件増改築のうち地下一階の築造工事は、本件土地(但し私道部分を除く)の約二分の一の部分の地盤を深さ約一五米に亘つて削り取るものであるので、それは相手方所有の本件土地そのものの原状を可成り変更し、その経済的価値を毀損することになるとともに、また本件土地と同筆の東側隣地の地盤との関係でも不均衡を生じさせることになることが認められ、それらが、相手方の土地所有権の侵害となることは否定できない。したがつて、借地の返還に際してそれを原状回復することが物理的に不可能ではないにしても相当困難であると認められる。したがつて、右のような程度の借地の原状変更を禁止する特約は合理的理由もあり、有効であるといわざるを得ないから、特段の事情の変更が認められなければ、この特約を遵守すべき義務は免れないので、たとえ、それが借地上建物の増改築をする場合であつてもこれに反することは許されないものというべきであり、そのような増改築は、土地の通常の利用上、相当であるとはいえないものと解すべきである。本件土地は昭和三六年七月五日借地契約締結当時から、前記認定のような地形をなしていたもので、前記の借地の原状変更を禁止する特約をした後、特段の事情の変更があつたとは認められないから、右の特約は遵守されるべきであり、右の特約に反するような借地の原状変更を伴う前記地下一階の築造工事は許されないと解され、したがつて本件増改築のうち、地下一階鉄筋コンクリート造車庫の部分は土地の通常の利用上相当であるとは認められない。
また、右の増改築部分は鉄筋コンクリート造である点で、前記のとおり一応堅固建物の建築禁止の特約にも反する。もつとも右特約は、借地上建物の全部又は主たるものを堅固な構造にすることを禁止するものと解されないではないが、本件の土地賃貸借契約公正証書第一条冒頭に「木造建物敷地として使用させる為め賃貸し」との文言がある上に、更に右特約の条項が付加されているところからすると、主たる建物でなくても堅固な構造にすることを禁止するものと解される。そこで、前記の規模を有する地下一階の車庫を鉄筋コンクリート造としても、直ちに、本件増改築後の建物が全体として、借地法第二条にいう堅固な建物となると断定することはできないが、右車庫は、単に自動車を格納するためだけに使用されるものではなく、一般に倉庫としての用途に供され得るもので、一棟の建物の一部であるとはいえ、可成りの効用を有するものであり、少くとも、右堅固建物の建築禁止の特約の趣旨には反するといわなければならない。
以上に述べた理由により、本件増改築のうち、地上の木造二階建居宅床面積一階50.196平方米(15.21坪)二階45.328平方米(13.71坪)の部分に限り、これを許可することとする。
三、そこで附随処分について検討する。
まず、財産上の給付については、本裁判によつて許可する増改築は全くの新築であつて、現存建物より耐用年数は延び、建物の朽廃による借地権消滅の可能性も非常に薄れ、また具体的にも、後記のとおり、借地権の存続期間を延長するので、申立人の本件土地利用の永続性は現在より以上に保障されることになるので、これによつて申立人は一応経済的にも利益を得ると解され、他方相手方は一応借地権消滅について有していた期待的利益を失い、借地法第四条による買取請求を受けた場合、或いは同法第九条ノ二の申立をされて、同条第三項の申立をすることになつた場合には、現存の建物より高額の出捐を余儀なくされる不利益を受けると解される。そこで右の当事者双方の利害を調整するために、この際財産上の給付として一定の金銭の支払をさせるのを相当とする。そこでこれを算定する確定的な方法はないが、前記認定の諸事情を考慮すると、右の財産上の給付額は、算定方法はともかくとして、その結論において、鑑定委員会の意見のとおり金一二万三、〇〇〇円(但し一、〇〇〇円未満は切捨てる。これは更地価格3.3平方米当り金二二万円とし、私道部分を除く本件土地全体の価格の約2.5パーセントに当る。)とするのが相当である。
また、本件賃借権の存続期間は、なお一三年近く残しているが、借地法第七条の趣旨にしたがい、今後約二〇年間となるように、昭和六四年七月四日まで延長する。
なお、賃料については、本件資料によれば、昭和四三年四月一日増額されて間がなく、その額も相当であるので、変更しない。(福嶋登)